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2009年02月05日

aiko『カブトムシ』

text by 福岡智彦

aikoの5枚目のシングルだけど、最初のシングル『ハチミツ』から1年半しか経っていない1999年11月17日の発売。
前作『花火』がブレイクして一躍注目される中での新作だったが、この強力なバラードで彼女は音楽シーンに不動の存在感を築いたといっていい。

何よりまずこの『カブトムシ』というタイトルがすごいよね。

ボクは「昭和の大衆歌謡」をこよなく愛する者なんだけど、その最大の魅力はダイナミックな歌詞世界なんだ。
『ジャワのマンゴ売り』、『バタビアの夜は更けて』、『ミネソタの卵売り』、『アルプスの牧場』、『サンフランシスコのチャイナタウン』といった国際色から、
『もしも月給が上がったら』、『僕は特急の機関士で』、『若いお巡りさん』、『野球小僧』なんていう生活直結型まで、
歌謡曲の詞の世界は縦横無尽、自由奔放そのもの。

シンガーソングライターが主流になり始めた頃から、等身大の自分、リアルな心情を歌うことがよしとされるようになって、歌詞の世界はどんどんつまらなくなった。
二十歳そこそこの人間の自分一人の経験世界なんてごくごく狭くて、惚れたのふられたのばっかり、あほらしくて聞いていられない。

『カブトムシ』も恋愛の歌だけど、恋した自分を、甘い蜜に誘われるカブトムシにたとえる大胆さは昨今の詞にはない(と言っても10年も前の曲だけど……)。
とは言え、よく解らない詞でもある。痛いほど恋する気持ちを綴りながら、「生涯忘れることはないでしょう」と先のことばかり考えているのはなぜ?

メロディもすごい。
近田春夫さんが「考えるヒット」でこの曲を取り上げて、コード進行が危ういほどスリリングと評していたように記憶するが、実にユニークで、でもギリギリでポップである。
言っておくが「ユニークでポップ」であることだけが音楽を成長させる。

そして何と言っても歌唱のすばらしさ。
まあ歌唱がよくなければここに書きはしないけど。
aikoのキュートで密度の濃い声がこの曲をさらに特別にしている。

その声のよさをさらに強調しているサウンドについても言わなければ。
アレンジのことではない。最後の音響調整作業をマスタリングというが、そのマスタリング段階でコンプレッサーをがんがん使って、音のプレゼンス、つまりスピーカーから飛び出してくるような感じを、ちょっと行き過ぎと思うくらいつくっている。
たとえば最後のブレイクのブレスがえらく大きいのはめいっぱいのコンプのせい。
これはこれで日本人マスタリング・エンジニアたちの音作りにはなかった大胆さで、ボクは好き。
こういうのはバーニー・グランドマンの前田さんが得意なのでてっきり前田さんだと思いこんでいたが、シングルにはクレジットがなく、この曲を収録したアルバム「桜の木の下」に、やはりバーニー・グランドマンだけど古川伊知子さんの名があった。


     



posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 15:37| Comment(0) | 一曲入魂 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月01日

エレファントカシマシ『俺たちの明日』

text by 福岡智彦

エレファントカシマシの『俺たちの明日』は2007年11月21日に発売され、CMソングとしてTVからも頻繁に耳にしたけれど、実は今年08年8月の終わりまで特に気になっていたわけではなかった。

エレカシは人気バンドだけど、ボクはそもそもファンでも何でもなく、1枚のCDも持っていなかった。
ただ、彼らがエピック・ソニー(当時の名称)に在籍していた頃、ボクは同じエピックで音楽ディレクターとして働いていたのと、エレカシのエピック時代のマネージメント事務所=双啓舎の社長にして彼らのマネージャーだったA氏が、さらにその昔、渡辺プロダクションでのボクの先輩だったという縁がある。

A氏はエレカシに惚れ込み、1988年のデビューに向けて、エレカシをマネージメントするために双啓舎という会社を作った。

「(本気だから)一心同体でやるということで宮本も取締役に入れたんだ。」
借りたばかりのオフィスをボクに見せながら、意欲と希望のみなぎった声で力強く語ったその時のA氏の顔は忘れられない。

だが残念ながら、エピック時代の彼らは売れなかった。

ボクは、嫌いじゃなかったけど、作風が疑問だった。
宮本君の歌はキヨシロー並みにパワフルだと思ったが、作品はやたらに叫び散らすばかりで聞き苦しかった。
よく言えば、やり場のないエネルギーが凝縮されたような歌、だが独りよがりな世界としか思えなかった。

A氏はほんと必死だったが、彼の想いや努力も空しく、1994年にエレカシはエピックから契約を打ち切られる。
それとともに双啓舎も解散し、A氏はエレカシと袂を分かつ。

皮肉なことにポニー・キャニオンで再デビューしたとたん、彼らは売れ始める。
正直、エピックの契約が終わって、もうダメだろうと思っていたのでちょっとビックリしたが、打って変わって売れセンのメロディになったのを、だったらエピック時代から、双啓舎時代からそれをやれよ、と思った。

その後もまったくと言っていいほど興味はなかった。
いつの間に東芝EMIに移り、ユニバーサルになったのかも知らなかった。

では、今年の8月の終わりに何が起こったのか。
8月31日。スペースシャワーのイベント「Sweet Love Shower」である。
ボクが現在勤めているバウンディのアーティストも出演するので、仕事として山中湖に行ったのだ。
その2日目。

「次はエレカシか。一応観ときますか。」
小雨の中を同僚と会場の方へ歩いていくと、いきなり宮本浩次が生ギター1本で『今宵の月のように』を歌い始めた。

ライブはすごかった。デビュー20年だというのに、落ち着きなく動き回り「エブリバデー!」を連発せずにはおられないほど、「やり場のないエネルギー」は少しも衰えていなかった。

デビュー当時と違うのは、今や彼らはすばらしい名曲をたくさん持っているということ。せつないメロディにのったパワフルな歌声はボクの心を激しく打った。

そしてラストの『俺たちの明日』。CMで15秒しか聴いたことがなかったその曲は、君の輝きが俺の宝物だ、君が居るからこそ俺はがんばれるんだ、という昔の友人を想う歌だった。

宮本君といっしょに会社を作って必死にがんばったA氏、この大きくなったエレカシのそばにはもうおらず、今や身体も相当に弱ってしまったA氏のことを想った。
言葉は幼なじみのことを語っているのだが、その時のボクは、ひょっとしたらA氏のことを歌ってるんじゃないだろうかと思った。
そう思ったらブワッと涙が溢れてきた。
ライブであんなに泣いたのは初めてだった。雨が降っててよかった。

エレカシのCDを1枚も持っていなかったボクはさっそくアマゾンで「STARTING OVER」と「エレファントカシマシ SINGLES1988-2001」を注文した。

シングル曲の変遷と最新アルバムを聴いて思うのは、エレカシは今がいちばんいいんじゃないかということだ。衰えないどころか益々パワーアップしているような歌声と秀逸なメロディ創作力、そしていまだに少年のようなその眼差し。
ずっと興味なくて損したとも思わないし、むしろ今出会えてよかったと思う。

あれ以来、ボクの頭の中にはいつも「さあ、がんばろうぜー!」というフレーズが鳴り響いている。
そして聴く度に、サビの5回目、5分30秒当たりの「忘れないぜ、そうさ今も」と声を嗄らすところで涙が出そうになる。




エレファントカシマシ『俺たちの明日』




posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 16:57| Comment(0) | 一曲入魂 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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