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2009年05月06日

Pat Metheny『Let Joy and Innocence Prevail』

text by 福岡智彦


Pat Metheny

パット・メセニーが作る曲には日本人にも通ずる哀愁があって心を惹かれる。彼はたぶんアイリッシュだと思うんだけど違うかな。

で、この曲。「TOYS」という映画(1992年製作)のサウンドトラックの中の1曲、『Let Joy and Innocence Prevail』。日本語に訳すと「喜びと純真さに勝利を」。長いタイトルなんで曲名を聞くだけで分かる人は少ないだろう。でもこの映画ではメインテーマと言ってよい重要な曲で、すばらしい作品だ。

哀愁をたたえた美しいメロディを切々と奏でるパットのギター。初めは静かに、少しずつ昂まり、最後には壮大なスケールへと展開する。
いかにもパット・メセニーらしい名曲……と思いこんでいたら、違った。
作曲はTrevor Horn/Hans Zimmer だった。パット・メセニーは演奏しているだけ。

そもそも、この映画のサウンドトラック全体を、トレバー・ホーンとハンス・ジマーがプロデュースしている。アーティストとしてもパット・メセニーのほか、エンヤ、Tori Amos、トーマス・ドルビー、Frankie Goes To Hollywood、Grace Jonesなど錚々たるメンバーが並んでおり、サウンドトラック・アルバムとしてはとても聴き応えがある。ちなみにパット・メセニーの『Let Joy and Innocence Prevail』はインストだが、その歌ありバージョンをGrace Jonesが演っている。

音楽的にはなかなかの傑作であるこの「TOYS」なのだが、映画としては……個人的にはあまり好きじゃない。だいたい主役のロビン・ウィリアムズが好みじゃない。ボクの個人的感想なのでファンのかたには申し訳ないが、なんだろう、演技がうますぎて(?)鼻につく、というようなところがある。

ロビン・ウィリアムズ演ずる主人公の父親が経営していた巨大おもちゃメーカーが、父の死により叔父に受け継がれる。軍国主義者である叔父はおもちゃを小型兵器に改造し、軍需工業化しようとするが、それに気づいた主人公がおもちゃの兵隊たちと戦い勝利する、というファンタジー・ドラマ。
勧善懲悪のどこにでもあるようなストーリーと演出は退屈だが、カラフルでかわいいのでそれなりに楽しめないことはない。
俳優だと、主人公の妹役のJoan Cusackと叔父の息子を演じたヒップホップ・スターのLL Cool Jがおもしろい。

まあ、ともかく映画よりサントラのほうがだんぜん重要な作品だが、当然この映画があって音楽の発注があったのだろうから、感謝はしなくてはなるまい。



Pat Metheny バージョン


Grace Jones バージョン


CD(貴重。廃盤近し?しかもiTunesにもありません)


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2009年04月17日

ダイア・ストレイツ『悲しきサルタン』

text by ワダマサシ


Dire Straits

もしも、誰かのギター・テクニックが手に入るとしたら…。
前回は、コステロの声が欲しいなどとワガママを言わせてもらったが、今日は大好きなギタリストの話をしよう。
わたしのギター・アイドルは、エリック・クラプトンでもジミー・ペイジでも寺内タケシでもなく、実はマーク・ノップラー。
明日になればまた気が変わるのかもしれないが、少なくとも今日の気分ではそうなのだ。
ストラトキャスターをまるでクラシック・ギターのようにピックを使わずに爪弾く彼のスタイルは、比べる者がいないほどユニーク。
イフェクターに頼らない透き通った美しい音色なのに、猛烈にロックを感じてしまう。
しかも自らディランばりのボーカルを歌い、それに合いの手を入れるように独創的なリフを奏でる。
したがって、4小節ブロックの前半が歌、後半がギターという繰り返しの構成になるのだが、これが異常にカッコいい。
それは、日本民謡の歌い手が、“はぁ~、津軽ぅ~名物ぅ~”と歌ったあとで、“ああ、どうした、どした”と自分で合いの手をいれるようなもので、完全に自己完結的な世界。
一人でほとんどやりますけん、バンドのみんなはリズムだけ刻んどって…みたいな。
アーティストたるもの、このぐらい自己中心的でいいのではないだろうか。

しかも、彼はきれいに韻を踏んだ難解な詩を書く。
わたしは、このサルタン・オブ・スウィング(原題)という歌を、悲しいかな「悪魔の感謝祭」みたいなイメージでずっととらえてしまっていた。
よく考えれば、サルタンとサタンの勘違いというお恥ずかしい話なのだが。
実際には、サルタン・オブ・スウィングというジャズ・バンドがオーディションを受けた時の滑った転んだを歌ったものらしい。

話は少し脱線するが、英語の詞というやつは、この“韻”というやつのせいで内容がたまたまアートっぽく転んでしまうものなのだと思う。
中国語も同じような現象が置きやすい言語で、うらやましい限りだ。
語尾合わせのために苦し紛れに選んだ単語のせいで、偶然にも内容が芸術的になってしまうことなど、日本語では考えられない。
最近では、ジョイマンがお笑いに取り入れたりしているが。

おっと、ギタリストの話だった。
わたしは、マーク・ノップラーのギターの音色がシャドウズに似ていると昔から思っていた。
ダイア・ストレイツとシャドウズを比べるなとお叱りを受けそうだが、わたしはマーク・ノップラーは“アパッチ”にインスパイアされて“悲しきサルタン”を作ったのだと今も信じている。
本当かどうかは本人に訊いてみるしかないが、聴き比べるとそんな気がしてこないだろうか?



:::::::::::::
M.Knopfler & E.Clapton-Sultan of Swing    The Shadows - Apache


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2009年04月04日

エルヴィス・コステロ『アリスン』

text by ワダマサシ



大好きなアーティストの声を手に(ノドに?)入れることが出来たなら…と想像したことはないだろうか?
例えば…、郷ひろみの声になって「お嫁サンバ」を歌ってみたいとか、桑田佳祐の声で「TSUNAMI」を歌いたいとか。
わたしも、ドン・ヘンリーの声で「ホテル・カリフォルニア」を歌ってみたいと思ったりしたものだ。

今なら、エルヴィス・コステロの声を迷わず選ぶ。
彼の声はボディが野太くとても逞しいのに、輪郭が擦れていて全体の印象が程よく都会的で切ない。
出来るものなら、一度でいいからあの声で「アリスン」か「ヴェロニカ」を弾き語りしてみたいものだ。
当代有数のヴォーカリストであるミスチルの桜井クンでさえ、エルヴィス・コステロには一目を置く。
彼のファンならば誰でも知っているが、そのことは「シーソーゲーム」のPVを見るとよくわかる。

わたしの理想の声帯の持ち主であるコステロは、若い頃よりも今のほうがずっとその天賦の楽器を生かしている気がする。
力の抜けたシャルル・アズナブールのカバーやバート・バカラックとのコラボが、芸域を広げたのだろう。
あれほど覚えにくいバカラックのメロディーも、彼が歌うと別の意味を持ちごく自然に心に響く。
あれこそ正に「歌力(うたぢから)」と言いたくなる素晴らしさ。
同様に、先ごろ来日したロッド・スチュアートもスタンダードカバーにトライしてから、すっかり魅力的な熟年ヴォーカリストに生まれ変わったようだ。

考えてみれば、彼らのように年齢を重ねてさらに新境地に到達というアーティストは、なかなかいない。
同じく理想的な声の持ち主で、あれほど光輝いて見えたCSN&Yのスティーヴン・スティルス。
今や輝きは頭部だけ、なんだか見るも無残に肥えてしまった。
肥えるだけならわたしも文句を言わないが、音楽が枯れてしまったように見えるのがファンとしては残念。
今更あの姿で「ジュディー・ブルー・アイズ」を歌われても、なんだか興ざめする。
老けても更に別の魅力を振り撒くコステロとは対照的だ。
スーパースターは、「昔の名前で出ています」だけでは許されない。
成功を勝ち取った後も、常に進歩し続けなければ評価を下げてしまう。
アーティストという職業は、つくづく過酷なものだと思う。
あれほどの才能のある人たちでさえ、うまく年齢を重ねていくことが難しい。
いわんや、凡人である我々をや…。




Elvis Costello - Alison




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2009年03月15日

青山テルマfeat.SoulJa『そばにいるね』EXILE 『We Will〜あの場所で〜』

text by かべみちこ



遠距離恋愛

“逢いたくても、逢えない”
それにはきっと、さまざまな理由があるでしょう。
片想いだから…
逢うことが許されないから…
遠く離れて暮らしているから…

昨年の大ヒット曲、青山テルマfeat.SoulJa「そばにいるね」と、
EXILE「We Will〜あの場所で〜」の2曲は、
偶然にも遠距離恋愛を歌っています。

もっと若い頃のワタシは、
「逢いたければ、逢えばいいじゃない」と無邪気に思っていました。
少し無理をすれば、新幹線や飛行機に乗れる。
電話をすれば、いつでも話ができる。
それでも淋しいときには、写真やビデオだってある。
今なら、メールでチャットっていう方法だって使える。

でもおとなになって、ヒトにはもう少し複雑な事情があることがわかってきました。
ヒトの心の中には乗り越えられないものや、乗り越えてはいけないものがあり、
それを抱えながら生きているってこと。
こんなに交通・通信事情が発達しているのにもかかわらず、
お互いを気づかい“逢いたくても、逢えない”と思うヒトたちがいるっていうこと。


ワタシは愛車の中で、オンガクを聴くのが大好きです。
誰にも邪魔されない密室のような空間と、
ひょっとしたら自宅のプレーヤーより性能がいいかもしれない最新システムのカーステレオ。
iPodにヘッドフォンもいいけれど、
通勤の電車で一緒になって歌うわけにもいかないでしょう。
車の中は何でもアリですから。

この2曲は車で聴いていて、思わずホロリとさせられてしまいました。
こんな繊細な心のひだに隠された思いを、サラリと何気に、
そして今風に表現できる作詞・作曲者に、拍手を送りたくなりました。
もちろん、歌うアーティストにも。

♪〜〜言いたい事わかるでしょ? あなたのこと待っているよ♪
♪あなたからの電話待ち続けていた 携帯にぎりしめながら眠りについた♪
「そばにいるね」

♪どんなに離れても その涙を流させぬ様に〜〜♪
♪悲しみ降り続く そんな時も笑っていよう 
いい事ばかりじゃない それより信じていよう♪  
「We Will〜あの場所で〜」

「そばにいるね」が女性の気持ちを歌ったものなら、
「We Will〜あの場所で〜」は男性側からのもの。

「そばにいるね」は2008年のダウンロード1位の曲で、ギネスブックにも載ったとか。
「We Will〜あの場所で〜」は2008年に発売された“EXILE BALLAD BEST”にも収録されていて、
100万枚を超えるセールスを記録しているとのこと。

この2曲を聴いて“わかるな〜、この気持ち”
なんて共感している人たちが今たくさんいることが、
なんだかワタシの心に引っかかったのです。
情報化時代になり、ヒトの心に触れる機会が減ってきたなんて言うけれど、
確かにそんな傾向はあるけれど、
しっかり何かを感じ、それを素直に表現している人たちがいて、
それを受け止め、共感できる人たちがたくさんいるっていうことが。
そして、デジタル時代といわれても、アナログ時代とヒトの想いは変わらないってことが。

“逢いたくても、逢えない”恋は、
きっと考える時間をたくさん与えてくれ、ヒトを強くしていくのでしょう。
そんな恋をしているヒトたち、
そして、そんな気持ちを忘れかけていたヒトたちへ。
 


青山テルマ feat. Soulja 「そばにいるね」PV


EXILE 「We Will〜あの場所で〜」PV
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2009年03月03日

Edison Lighthouse『Love Grows』 The Beatles『Let It Be』

text by 福岡智彦

今回は二曲入魂になってしまうけど、二曲同時のエピソードなので許してほしい。

1970年のことである。大阪万博の年。ボクが高校に入学した年。高校受験のために、ラジオの深夜放送を聴きながら勉強するのが習慣になった。当時の学生の典型的な夜の暮らしぶりだ。
あの頃、学生はみんな、夜中ラジオを聴いていた。今の学生は何しているんだろう?

それはともかく。
その時期に毎晩のようにラジオから流れてきたのが、ビートルズの「Let It Be」とエジソン・ライトハウスの「Love Grows」(邦題:恋の炎)。
誰でも知っているビートルズと、無名のグループ。
でもボクは深夜放送を聴くようになって、ようやく洋楽を聴き始めたので、恥ずかしながら、そのビートルズ解散の年になるまでビートルズをちゃんと聴いたことがなかった。

だからビートルズもエジソン・ライトハウスもボクの中では同格。「Let It Be」も大好きだったけど、「Love Grows」も負けず劣らず好きだった。いや、むしろ「Love Grows」のほうが好きだったかもしれない。
限られた小遣いじゃレコードを買うのもたいへん。欲しいものが2枚以上あるときは友だちと相談して、別のものを買い、交換する。ボクは「Love Grows」のシングルを買った。

「Let It Be」はしみじみいい曲って感じなのに対し、「Love Grows」は甘酸っぱい、ワクワクするような感じ。「恋するってどんな気持ち?」。妄想に頭が膨らみきっていたガキのボクには、そちらのほうが気分に合ったのかもしれない。

ネットで調べたら、「Love Grows」は1月31日にUKチャートの12位から1位にランクアップ、以後2月28日まで5週に渡ってトップを守る。「Let It Be」はUKチャートでは3月14日に前週33位から2位にランクアップするが最高2位止まり。でもビルボードでは、3月21日に6位に初登場チャートイン。その時に「Love Grows」は13位から8位にランクアップ。3月28日から2週間、なんと、既にボクの一曲入魂に登場した、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」が1位で「Let It Be」が2位と並び(なんかこれ、感動的です)、「Love Grows」は5位。4月11日に「Let It Be」が1位になり、「Love Grows」は6位。
両者の勢いと、米英での違いが興味深い。
Let It Be」がUKで1位じゃなかったなんて……。
それにしてもこのころのチャートっておもしろいねー。

それがネットで調べられるのがまたすごい。
当時はその時代に生きているのに、そういう情報を手に入れるのはたいへんだった。今の会社の友人で、若い頃ノートにずっとビルボード・トップ40をつけていた人がいるが、それは毎週FMを聴きながらノートに書いていったわけで、根性と根気がなければできることではない。
それが今や数分あれば調べられる。
今から考えると当時は、暗闇の中で手探りで音楽に接していたようなものだと思う。
でもそれはそれのよさがあった。
今は今のよさ。40年ちかく時を経て、その頃のことをこうして見られることが楽しい。
そして、ボクの友人のビルボード・チャート・ノートも、その価値は決して色褪せない。

さらにネットでの発見。
エジソン・ライトハウスのヒットはこの曲だけ。いわゆる一発屋なんだけど、AMG (All Music Guide)で調べてみたら、作曲家とプロデューサーが作った“架空の”グループだったらしい。そして、Tony Burrowsという人がボーカルなんだけど、その人は別のいろんなグループでも歌っていて、「Love Grows」がヒットしている時に、同時にあと3つのグループの曲がUKのトップ10にチャートインしていたという、今じゃ考えられない快挙(怪挙?)も成し遂げているとのこと。
ラジオがヒットの機動力だった時代のなせる技かもしれない。



Edison Lighthouse-Love Grows
Edison Lighthouse - On the Rocks - Love Grows (Where My Rosemary Goes)



The Beatles - Let It Be

福岡智彦(フクオカ・トモヒコ)大阪府出身 さそり座 AB型
渡辺音楽出版〜エピック・ソニー〜ソイツァー・ミュージック〜ロビン・ディスク
音楽制作ディレクターとして、
山下久美子、チャクラ、太田裕美、GONTITI、くじら、PINK、土屋昌巳
遊佐未森、小川美潮、Killing Time、eEYO、明石百夏、Convex Level、
松谷卓、こながやひろみ、梵鉾、河井英里、南烏山六丁目プロダクション等を担当。
21世紀に入ってからは、主に音楽配信業務に携わる。
2004年 ソニー・ミュージック退社 音楽配信サイト「recommuni」の設立に参加。
2007年 バウンディ入社 現在に至る。

posted by 「HEART×BEAT」事務局 at 09:29| Comment(0) | 一曲入魂 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする